鯉の彩りの鮮やかなデザインが目を引くそのボトルを初めて見た時、まさか日本酒だとは到底思いつかなかった。
 今代司酒造との出会いは私にとって非常に衝撃的なものであり、こんな斬新な切り口で日本酒を造っている酒蔵は初めて!と、瞬時に一目惚れした唯一の日本酒であった事は言うまでも無い。
 以前から気になっていた中で、偶然にご縁を頂き、遂に蔵訪問に至った訳だが、新潟駅から歩いて行けるという立地は酒蔵としては非常に珍しく、山や畑の中に佇む酒蔵とはまた一風違った凛とした空気感を纏っていた。
 創業は1767 年、旅館業や酒の卸業などサービス業からスタートし、明治の中期、綺麗な阿賀野川の水と運搬に適した栗ノ川の立地の元に蔵を構えた。
 当時は酒を瓶に詰めず、樽詰めで出荷していたので酒屋は蔵から仕入れた樽詰めの酒に水を加え、薄めて量を増やしてから売ることが許されていた。
 しかし、酒蔵も酒蔵で、出荷時に水を加えて儲けていたため、まるで金魚が泳げるほど水で薄まった酒ということで「金魚酒」という言葉が出来たほど。
 そんな中で今代司は酒を水で薄めることなく出荷していたので、酒屋からは大変喜ばれたのだそう。今代司の酒は「濃い酒=鯉酒」ということで、こんなに斬新な錦鯉のデザインが生まれたそうだ。酒を一瓶飲み干した目印に、瓶を横倒しにしていた慣習から、その様がまるで鯉の様だということもデザインの由来となっているのだとか。
 今代司の酒の最も大きな特徴は、純米仕込みに徹しているということだ。2006 年からは完全にアルコール添加をしないスタイルに切り替わっている。
 一般的にアルコール添加を行うことで、最後に味の調整をすることが出来るのだが、つまりこれを行わないということは通常以上の最新の注意を払っての酒造りが必要になる。このような純米専門の酒蔵は新潟県内において戦後最初の取り組みであったそうだ。
 実際あまり知られていないことではあるが、日本酒造りにおいて水はその土地のものであることが多い中、米に関しては異なる産地のものである場合が多い。
 米所だからといって、必ずその土地の米を使って酒造りをしているとは限らないのだ。
 そんな中、100%新潟県産の酒造好適米を使用しているのだ。酒造好適米は心白の部分が大きく、水を吸いやすいので酒造りに非常に適しているという特徴があり、米の旨味とキレの良さを実現して、新潟の美味しい食材の味をしっかり引き出してくれる。

▲食をひきたたせて、飽きない純米酒の数々

▲敷居の高さを感じさせない人のあたたかさに溢れた蔵見学

▲「今の時代を司る」という意味の蔵名が刻まれた樽。その名の通り
今の時代に合った新しい日本酒の楽しみ方を提案している

▲最新の注意を払って丁寧に造られる酒造りの工程

 

 観光で新潟に訪れたついでに、気軽に蔵見学してみたいという訪問者を心良く受け入れてくれる今代司酒造は、若者や外国人観光客にも大変人気が高く連日たくさんの見学者が訪れる。
 蔵の中は酒造りの現場の空気感をリアルに感じ取れる空間となっていて、酒造りの工程を楽しく体感出来るように演出されていた。

▲杜氏の高杉修さん

 そして何より温かみのある蔵人たちのもてなしが、この酒の旨さの秘訣であると悟った。
 帰りにお土産コーナーにておむすび型のデザインの清酒「おむすび」が目にとまった。
 人生において無くてはならないものとは言えない「酒」であるが、心を通わせ人と人を「むすぶ」大切な役目を担っているものだと心から感じた。
 伝統を継承して行くのは容易なことでは無いが、斬新な発想を取り入れて行くことは、伝統の良さをより多くの人に伝えるきっかけとなる。次世代の日本酒の先駆けのような酒蔵である。

 

▲「Design for Asia Award 2015」や「iF DESIGN AWARD」など、国際的なデザイン賞を受賞している錦鯉

 

今代司酒造

〒950-0074
新潟県新潟市中央区鏡が丘1番1号
025-245-3231
取材&文:
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  野口 万紀子

株式会社「 5TOKYO」 代表取締役
利き酒師 / プロデューサー
「日本の伝統とトレンドを人間の五感で繋ぐ」をテーマに、和酒を中心とした様々なイベントプロデュースやコーディネートを手掛ける。