浅草寺のある浅草駅から数分、伝法院通りを入ってすぐの場所に今回お邪魔した磯蔵酒造が運営する直売店「窖:あなぐら」はある。
暖簾をくぐるとまず、およそ日本酒の直売店とは思えない溶岩の洞窟状の店内に驚かされる。沢山の観光客で賑わう表の喧騒とは一線を画す静かな佇まいに、店内は時間の経過すら緩やかに感じられる。
独特な趣を醸し出す店内は以前居酒屋だったそうだ。約50年続いたその店には故・勝新太郎氏も足繁く通っていた。
磯蔵酒造がその居酒屋を買受け、直売店に改装したのは2017年のこと。この洞窟状の居酒屋を直売店にした理由は、茨城県笠間市に於いて150年ほど酒造りを行ってきた同酒造が、「日本酒をもっと真っ当に飲んでほしい」との思いからだった。
磯蔵酒造の酒造りは150年前、明治元年に遡る。当初は酒蔵ではなく農家であった。磯蔵酒造のある茨城県笠間市は水をろ過することができる御影石の大々的な産出地であったことから酒造りがスタートし、現在も石透水(せきとうすい)仕込みにて酒造りを行っている。 150年間連綿と受け継がれてきた酒造りは非常に地元意識の強いものとなっていき、現在でも地元の酒米、地元の水、地元の蔵人が地元に向け、質実剛健と酒造りを行っている。米を作る農家がいないと米にならず、米を酒にする蔵人がいないと酒にならず、酒を売る酒屋がいないと人に売れず、人を集める飲み屋がないと・・・というように酒造りは造り手と飲み手を繋ぐもの、すなわち米・水・人を介した循環なのだ。
「本当の地酒とは、地元の米を地元の蔵人が酒にして、地元でこそ飲んでもらっている酒のこと」とは同酒造 五代目蔵主 磯貴太氏の言葉だ。店内には酒のみならず焼物を中心とした酒器なども並ぶ。それらは全て磯蔵酒造の友人たち、つまり「誰が」「どこで」「どうやって」作られているか分かっているものだ。インターネットやネット通販が日々の生活へ浸透した昨今、当たり前のようにワンクリックで世界中のどこへでもモノが届くが、顔が見えることにより責任を持てる商品しか店舗には置かない。逆に言えばインターネット上では伝えきれない部分を、この窖に足を運ぶことで得ることこそが価値であると感じた。
磯蔵酒造には、特徴的な「酒造りに大切な三要素」なるものが存在する。色で表現されるその三要素はそれぞれ黄金色:米 青色:水 赤色:酒造りに対する蔵人の情熱と分類されるが磯氏曰く「赤色が最も重要」とのことだ。 どんな酒がいい酒なのか?逆にどのような酒を作るのか?作りたい酒とは? それに必要な水とは? 米とは? を徹底的に自らを通して考える情熱が先ず有り、その先に米や水があるとのことだ。徹底的な自らの問いかけや、その拘り、地元への姿勢など磯蔵酒造の酒造りには禅の精神世界にも通じるものを感じた。
最後に「ではどのような方に飲んでもらいたいのか」という質問を磯氏に投げかけてみたところ、「酒は人と人との潤滑油のようなもの、何か繋がりのある人間関係を更に深めるために飲んでほしい」
「敢えて言えば酒は2人以上で飲むもの、一緒に飲もうと言える酒、1人にさせないお酒がよいお酒」それだけです、とのことだった。
なるほど、自分たちの酒造りには厳しく、飲み手には優しいそのスタイルこそが150年もの間地元から、更には各地の飲み手から支持を受け続けることができる秘訣なのかもしれない。

▲店内だけではなく、ビジュアルから1本1本の日本酒それぞれに個性が感じられる

▲とても柔らかい物腰でご説明いただいた磯貴太氏とともに

▲「誰が制作しているかを知っているだけでその商品に対する信頼度が違う、だから店頭に置くのだと磯氏は語る

▲今回ご紹介いただいた3商品。どれも磯蔵酒造のこだわりが存分に感じられる逸品だ

▲磯氏のキャラクターはそのまま商品となって現れる。こちらの酒粕サブレは直売所でも屈指の人気商品とのこと

▲五代目蔵主 磯 貴太氏「磯蔵酒造が150年間大切にしてきた“地酒という考え”をこの“窖”で体験してほしいと思っています」
~磯蔵酒造 直売店 「窖」~
磯蔵酒造直売処 ちょっ蔵◎日本酒文化専門店 窖(あなぐら)
〒111-0032
東京都台東区浅草2丁目2-1
03-3845-2002