平成という時代が終わろうとしている。一つの時代を振り返る時、そこには革新的なもの、伝統的なもの、様々なものがそれぞれの色を持って根付いていることに気付く。このコーナーでは多種多様かつ変容的な現代社会の中で、静かに時代を繋いできた伝統や技術、それらを伝える人に光を当てる。次の時代が終わる時、またこのコーナーを見返してもらえるように。
取材&文/本多千尋

波戸場承龍:右

1956年 東京生まれ 株式会社京源 代表/紋章上繪師/日本文化の中で長い年月をかけて育まれてきた家紋文化を次世代に繋げる担い手として、「デザインとしての家紋」を軸とした活動は多岐にわたる

波戸場耀次:左

1983年 東京生まれ 幼少期より父 承龍の仕事場で家紋に囲まれて育つ。幼少期から磨かれた独自のデザインおよびバランス感覚から、家紋の魅力を国内外に発信している


▲壁面には鋲で制作された、巨大な家紋の作品が存在感を放つ
文章上繪師という言葉をご存知だろうか。おそらく日本人であってもその実態を知らない人がほとんどなのではないだろうか。それは日本の伝統文化とも言える着物に手描きで家紋を描き入れる職人のことである。日本国内でも指折り数える程しか存在しないその文化人が待つ趣高い工房の中には、古典的なイメージとは真逆の真新しいPCが数台並んでおり、不思議と同化する様に家紋の作品が数々並んでいる。
 近代西洋文化が根付き、核家族化が進んだ現代において、家紋というと何やら敷居の高いイメージが先行してしまうのは否めない。しかし西洋における紋章は貴族のみが持つことを許されるものに対して、日本の紋章は誰もが持つことのできる非常に自由性の高いものであった。昭和の中頃までは紋付や留袖など着物を誂えるのは非常に一般的なものであり、その着物には“家”を表す家紋が描かれていた。人々はその家紋を見てどこの家の人間か判断する、いわば表札のような位置づけであった。家紋の歴史は古く、平安時代から始まるとされ、約200年前に江戸時代に広く流通し、上流階級だけでなく一般人も思い思いのデザインによる家紋を持っていたという。
 株式会社 京源は、1910年に波戸場 源次が紋糊屋として創業した屋号「京源」に由来し、紋章上繪師として波戸場 源がその名を継ぐ。そして今、三代目 波戸場 承龍と波戸場 耀次親子へと継承され、連綿と次世代へと引き継がれている。前述の通り、現代では着物に施されている家紋の多くは型でプリントされた印刷紋のものが多い一方、京源では承龍氏が墨と筆を使って一つ一つ丁寧に着物に家紋を描き入れているのだ。
正円と直線で構成される家紋のデザインは、分廻しと呼ばれる竹製のコンパスを使って描かれ、シンプルなパーツの組み合わせによって複雑なデザインを作り上げる。工房の壁面に飾られた巨大な作品は圧巻の一言、思わず息を飲んでしまう。一見すると非常に規則的に見えるのに、デザインを構成する釘のような部分を拡大すると、これ以上はないという絶妙なバランスを保ちながら一番美しく見える点の位置で打ち込まれており、これらは一つ一つ手作業でデザインされているという。
 2014年からはUNITED ARROWSの男性着物フォーマルライン「京源の男着物」のプロデュースや、現在では着物以外にもCOREDO室町1・2・3のエントランスに掲げられている暖簾の紋章やART AQUARIUMの金魚家紋、クリネックス・FURLAなどのブランドとのコラボレーションにより、新たな家紋の世界観を現代へ作り上げている。手描きで家紋を描く作業と現代的なデジタルデザインを繋いだのは、制作ソフトIllustratorとの出会いであったと息子の耀次氏は語る。
 以前からPCでの作業は取り入れていた中で、耀次氏が新たにIllustratorを使った家紋のデータ制作をスタート。どんなに拡大しても美しい線を崩すことのないそのクオリティの高さから、家紋デザインの新たな手法として取り入れることとなった。
 伝統と革新的な技術は意外にも親和性が高いのかもしれない。新たなデジタルツールを使う事と伝統文化の手法を共存させることについて耀次氏に尋ねてみると、意外にも肯定的な意見が返ってきた。
 「従来、家紋を描く時は竹製のコンパスを使うのですが、円を手描きで描くのと、Illustratorの円ツールで描くのと、道具が変わっただけで本質的には変わらないのです。今では親子でIllustratorを使うようになったことで、新たな家紋の可能性が広がり、伝統を現代に繋げていく役割がよりしやすくなったと感じています。」
 日本の伝統文化を継承し、新たな手法や様々なジャンルの中で活躍の場を広げている紋章上繪師によるデザイン。その魅力に引き込まれルーツを辿ってみて感じたことは、従来の伝統文化として施されている手描き作品の側からも、進化したその作品の側からも、同じ日本の美学に辿り着く。それは非常に手の込んだ究極のシンプル美であり、日本人が大切にしてきた引き算の美学がしっかりと再現されているのだ。

革新的な技術で、伝統文化の手法を共存


▲展覧会「KAMON EXHIBITION -家紋とアートの親和性-」

▲正円で構成されたデザイン

▲一切下絵のない繊細な手作業 Photo: Hans Sautter

▲鋲で製作された巨大な家紋の作品

▲分廻しと呼ばれる竹製のコンパス(写真中央)で圧巻の作品が生まれる

▲枡デザインの作品

▲クリネックスとのコラボレーション 至高「極(きわみ)」

▲FURLA社とのコラボレーション作品、家紋は現代社会にも非常に溶け込みやすいデザインなのだ

取材協力/株式会社 京源

TEL 03-6231-6856 FAX 03-6231-6856

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